14話:隠れた力「貴子!!」レイザーの艦上で崩れ落ちる緑のスロウ。翔はスピルスをスロウの横に降ろした。その時、燃えるスロウに駆け寄る人影があった。その人影は消化弾をコクピット周辺に数発打ち込むと、消化銃を投げ捨ててコクピットのところに飛び上がった。外部からの緊急用ハッチパージを使った。ハッチが吹き飛ぶ。中からはぐったりとしたパイロットスーツ姿の貴子が運び出される。貴子を抱えた状態でスロウから飛び降り、レイザー上部のハッチへと飛び込んで行った。とんでもない運動神経だ。それとほぼ同時に友子から翔に通信が入った。 「スロウを吹き飛ばしてください!」 「りょ、了解!」 翔はブレードと盾を使って、燃えるスロウをレイザーの艦上から落とした。バラバラになって太平洋に消えて行った。 「今のは・・・誰だ?」 あれだけの身のこなし、そして、人一人抱えた上たでの行動。一体誰が・・・。 「翔!来るぞ!!」 レッシュの言葉で現実に引き戻された翔はレイザーの艦上を離れ、激突している3機のGへと向かった。 「ミコさん!」 「わかってるわ!パイロットスーツを脱がせて!火傷しないように気をつけて!」 ボロボロになった耐火服に身を包んでいる女性が貴子を医務室のベッドに降ろした。クルスがありったけの医療用具を準備して、ミコのサポートをする。ミコはこのようなことがあってもいいように医師の免許を持っていた。見たところ彼女の傷は幸いにも浅い。簡単な処置で助かりそうだ。 「でも凄いわね。あんなに力があるなんて」 ミコは壁にボロボロの耐火服のまま、うずくまっている女性に目をやった。その女性は耐火服のヘルメットをとった。その女性は優美だった。ふう、と息をつくと、天井を見上げた。ミコはそれを見て「大丈夫そうね」と言った。 「貴子の治療が終わったら、優美ちゃんも診てあげなきゃ、ね」 レッシュが白いGに照準を付ける。“シルバー・アロー”からエネルギー弾が連射された。白いG1機のシールドが爆発し、他の弾丸を辛うじて回避する。 「・・・やはり危険だ」 「排除する」 翔のスピルスがダメージを受けた白いGを追い詰めた。翔はブレードを敵に向かってほうり投げる。白いGはそれをあっさりと回避した、が、白いGの目の前には灰色のGが躍り出ていた。そして、左腕を白いGに添えた。 「悪いな・・・レッシュの真似だけどな」 翔はプログラムにある、「ショック・リミッター解除」の項目を選択する。そして、ジェネレーター・ショックを起こした。 「食らえ!!ショックだ!」 伸ばしたスピルスの左腕の盾が上にスライドし、砲身のようなものが現れた。そこからエネルギーの流動が起きる。凄まじい光が辺りを包んだ。白いGのコクピット内では赤い光が警報と共にジェネレーター・フィールドの限界を知らせる。終わりだ。 「世界を・・・」 「・・・何だ?」 翔は白いGの最期の言葉を聞いた。それは、翔はすぐに忘れてしまった。それほど他愛の無い言葉に翔には聞こえた。その時、翔とレッシュに通信が入った。 「隊長!貴子さんは無事です」 「・・・はぁ」 「安心するのはまだ早いぞ!こいつを落とす!」 レッシュは機体を戦闘機に変形させ一旦距離をとった後、エネルギー砲、ミサイル、“シルバー・アロー”を一気に発射した。弾幕の雨が白いGに降り注ぐ。人間の動きでしかできないような体勢からミサイルを迎撃し、“シルバー・アロー”を回避した白いGの目の前に、赤いGが2本のブレードを構えていた。 「終わりだ!!」 赤いGはわざと斬るタイミングをずらして、白いGを三つに切り裂いた。赤いGは侍が切先に付いた血を払うように両方のブレードを振るった。そして、背中に格納する。レッシュには白いGが切り裂かれて尚、動こうとしているように見えた。執念と言えるのだろうか。 「“F”貴様の存在は・・・」 白いGは跡形も無く爆発し、微かに残った残骸が太平洋へと消えて行った。レッシュが白いGに“勝った”のはこれが初めてのことだった。 「貴子は無事か?」 翔は医務室の前にいたクルスに問う。クルスは笑って答えた。 「大丈夫。優美っちが助けたの。凄かったよ。でもさ、一番驚いたのはミコよ!医師免許持ってたんだもん」 「優美ちゃんが助けた・・・?」 翔は首をかしげた。彼女はこの部隊の中で一番小さい。スタイルも細身でとても力があるようには見えない。人は見かけによらないものだ。ミコが医師免許を持っているのはどうやら知っていたようだ。驚かない翔にクルスは「ちぇー」と舌打ちした。 「レッシュは知ってるのかな・・・」 「何か言った?」 「いや、何でも」 顔を覗き込んできたクルスに翔は笑って返した。翔はクルスに「入ってもいいか?」と許可を取ってから、医務室に入って行った。 「貴子は無事だって?」 「うん、たいしたこと無いよ。翔さんがついてる」 格納庫で真琴がメンテナンスを指示しながらレッシュに詳細を伝えた。格納庫では忙しくメカニックの女性たちが動いている。 「優美ちゃん凄かったよ。どこにあんな力があるんだろうねー」 「優美か・・・なるほどね」 「え?隊長は知ってるの?」 くびを傾げる真琴にレッシュは笑って多くは言わなかった。「優美に直接聞いてみろよ」と笑うだけだ。あっと思い出したように真琴はレッシュに新兵器の感想を聞いた。 「どう?“シルバー・アロー”凄いでしょ、あれ」 「ああ、確かに凄いな。よく作れたもんだ」 「でしょ?でも、さっき“テスト”は終わったから、次は完璧よ」 真琴はさらっと恐ろしいことを言ったが、レッシュは理解するのに多少時間がかかった。 「・・・待て。今、「さっきテストは終わった」って言ったか?」 「うん、言ったよ」 真琴は腕を組んで笑っている。「あ、それは慎重にね!」と余裕で指示を出していた。レッシュは半ばあきれた様に肩を落とした。もう、何を言っても無駄だ。つまりは、さっきの戦闘が“シルバー・アロー”のテストを兼ねた実戦投入ということだ。 「・・・とりあえず整備は頼んだ。俺は優美の様子を見てくる」 「任せて!行ってらっしゃい!」 レッシュは諦めてその場を後にした。真琴はレッシュが出て行った扉を見つめていた。 「さぁ、最終調整をするよ!みんな、気合入れてよね!」 格納庫が沸いて、更に力のはいった作業が続いていた。 「優美、平気か?」 「レッシュ!私は平気です!・・・あっ、お帰りなさい」 パイロットルームには頬に絆創膏と右腕に軽く包帯を巻いた優美が笑顔で迎えてくれた。恐らく貴子を救出した時の怪我だろう。その笑顔から大したことなさそうだ。長いすから立ち上がってレッシュのそばに駆け寄ろうとしたとき、奥から申し訳なさそうな声がした。 「優美っちー?私もいるんだけどさ」 「え!?あ、クルス居たの?」 「居たの?って、一緒に来たじゃん。はぁ、私って・・・」 のけ者にされていたクルスがブツブツ文句を言っている。優美がなだめているがクルスには前々から聞いてみたいことがあった。最近の優美の変化だが、大きなものだからだ。悪戯っぽくクルスが優美に言う。 「ねぇ、優美っち?」 「はい、なんですか?」 「あの旅行からだよねー?隊長のことファーストネームで呼んでるの。・・・何かあったの?」 クルスはにやにやと笑って優美を見る。優美は赤くなって言い訳をしようとしたが、言い訳になっていなかった。 「え!えーっと、レッシュが・・・ほら!名前で良いって・・・あれ?」 「はいはい、この辺にしといてあげるよ」 優美の肩をクルスはポンポンと叩いて「頑張って」と言ってパイロットルームを後にした。優美はぎこちなくしていたが、レッシュの「面白いやつだよな」という言葉に優美も一緒になって笑った。優美はこうやってレッシュと笑い合える時間が好きだ。笑い合えることが多くなればと、彼女は願う。 「ハワイ沖、およびハワイ湾岸エリアで戦闘が発生した模様!」 「もう始まったか・・・」 オペレーターの言葉に、指揮官は身を乗り出して言う。翼たちはすでにGに乗り込んでいるか、予想しているより早い戦闘だった。オペレーターの声は翼たちにも届いていた。すぐに発進ということになりそうだ。翼は首をコキコキと鳴らし、次いで指を鳴らす。 「未確認ですが、傭兵部隊も戦闘に介入している模様!」 「傭兵もか・・・。ややこしいことになっているな」 髭を擦りながら指揮官はキャプテンシートに座りなおす。このままだと戦闘が長引く可能性が高い。いつ、彼らを突入させる時期を彼は模索していた。その時、ダイレクトにキャプテンシートに通信が入る。翼からだ。 「ブリッツェン艦長、俺たちを出してくれ」 「だが、鷹山君。この状況では・・・」 「大丈夫だ。俺とヴィラで先行する。バラッドは艦の上で待機して、そこから来てくれ」 ブリッツェンの言葉を遮り翼が作戦の提案をする。ブリッツェンは直ぐに許可を出した。 「いいだろう。やってくれ」 「そうじゃねぇとな!」 翼はパイロットメットを被り、グローブのロックを締め直した。ヴィラも髪をバックで簡単にまとめ、メットを被った。バラッドはバイザーを降ろし、機体を起動させる。先に艦上で待機するため近距離飛行用アタッチメントを取り付け、戦艦の上部へと機体を運んだ。 「カールトンだ。先に行く。ハッチを開けてくれ」 「カールトン機の出撃を確認。続いて、鷹山機ブラック・バード、発進位置に付いてください」 翼は人型形態のブラック・バードをカタパルトに運んだ。脚部をロックして合図を待つ。 「進路に障害物なし。発進してください」 「鷹山だ。ブラック・バード出るぜ」 急激な加速Gが掛かり翼は機体を発進させた。発進して数秒は人型形態だが、直ぐに戦闘機形態へと変形し、加速して行く。翼の目には戦いの光が見える。かつてのリゾート地の面影はすでに無い。 「鷹山機の出撃を確認。続いて、ハイオルス機シャイニング、発進位置に付いてください。フライング・システムを装着します」 シャイニングの背中と脚部、肩部にフライング・システムを装着される。ヴィラはシステムを最適化し、発進を待った。 「発進どうぞ!」 「ヴィラ・ハイオルス、シャイニング行くわよ!」 黒いシャイニングが加速し、青い空に飛び立っていった。黒い戦闘機がヴィラを待っていた。彼女が追いつくとその前を守るようにして黒い戦闘機が飛ぶ。2機の黒い機体がハワイの戦火へと飛び込んでいった。 「ハワイで戦闘を確認!隊長、翔さん発進準備いいですか?」 友子が格納庫の機体の中にいる2人にお伺いを立てた。2人から景気のいい返事が返ってくる。 「いつでもいいぜー」 「ああ、こっちも問題ない。セットは完了している」 翔はコクピット内に取り付けられたカメラにパイロットメットから笑顔を見せ、友子に親指を立てた。友子も笑顔で返す。ついで、レッシュの映像に切り替わった。レッシュもパイロットメットを被り、バイザーを降ろしながら笑顔を送る。準備は整った。 「翔機、スピルス、発進してください」 「翔行きまーす・・・とかな」 ハッチが開いて翔が機体を前に進める。レイザーは武装が施されているとはいえ輸送機のためカタパルトが無い。そのまま発進することになる。翔は格納庫内を傷つけないために機体を一旦降下させ、そこでバーニアを吹かし一気に加速した。綺麗な弧を描いて灰色の機体が空へと飛び立つ。直ぐに赤い機体がハッチの前まで来た。その時、友子との間に少女の声が割って入る。 「レッシュ!気をつけてね」 「ああ、心配するな」 「ちゃんと帰ってきてね」 優美のその言葉には返答が無かった。優美はいやな予感がしていた。何かが壊れてしまうような嫌な感じが。この感じは“あの時”、レッシュがボロボロの機体で帰ってきた時と同じだった。 「レッシュ・・・」 優美はぎゅっと手を合わせて祈る。彼が帰ってくるように。そしてまた笑い合えるように。 「CE、レッシュ行って来る」 赤い人型の機体がハッチから降下し、空中で戦闘機へと変形した。そして、灰色のGを追いかけて青い空へと飛び立っていった。 「やっぱ、多いな」 「早く片付けて帰りましょ!」 激戦地となっている地上を見て翼がぼやいた。先行している反政府軍の一般部隊と防衛する世界政府軍。そして、まちまちの個性を持った機体が見える。恐らく傭兵組織だ。空と海は輸送機や戦艦で埋め尽くされていた。3勢力となったことでこの戦況は全く掴めないものとなった。 「暴れてやるぜ」 翼は機体を一気に加速させ、戦火の中に飛び込んでいった。 ジャンル別一覧
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